広島県

まきのさんは、広島文理科大学の学生たちを引き連れて野外実習を行った。そのとき、一面に野生している、ちょうど花のまっさかりな絶好の時期のカキツバタに出会った。

まきのさんによると、カキツバタの語源は「書き付け花」で、古来から花をすりつけて衣服を染めるのに利用された歴史がある。『万葉集』にも、カキツバタの花が咲き衣服を染める季節になったことを詠う句が、たびたび登場する。

まきのさんは一面に花咲く野生のカキツバタに出会ったとき、その歴史が思い浮かんだので、ためしに白のハンカチにすりつけてみたところ、藤色に染まった。ワイシャツにもすりつけて昔の気分を味わった。

カキツバタを解説した文章『カキツバタ一家言』に、当時を思い出して、以下のような句も書き残している。

 衣に摺りし 昔の里か かきつばた
 ハンケチに 摺って見せけり かきつばた
 白シャツに 摺り付けて見る かきつばた
 この里に 業平来れば 此処も歌
 見劣りの しぬる光琳 屏風かな
 見るほどに 何となつかし かきつばた
 去ぬは憂し 散るを見果てむ かきつばた